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2006年05月16日

『スピノザの世界』上野修

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 最初に手に取ったときは、散々悩んで買わないで帰りました。
 普通の新書なのですから楽しんで読めば良いのですが、哲学科上がりのチンピラ崩れとしては、心中複雑なのが率直なところです。わたしはアカデミズムの中にいる人間ではありませんし、大学人も好きではありません。この辺、かなり心が歪んでいるので、大学人以外にとってあまりにも「換金性」の低いものにはもう関わりたくないのです。
 でも結局買っちゃいました(笑)。

『スピノザの世界 神あるいは自然』上野修『スピノザの世界 神あるいは自然』上野修

 この手の書籍としては異様にとっつきやすく、著者の方が一研究者として優秀なだけでなく、教育者・もの書きとしても一流であることが伺えます。この世界、頭はものすごく良いのかもしれないけれど市井の人間への伝え方が極めて不親切・稚拙で、芸人根性ゼロなセンセイが沢山いらっしゃいますから(笑)。ウィトゲンシュタインにおける永井均本のようなポジションだと思います(永井均に批判的向きももちろんあるでしょうが、ごちゃごちゃ学者くさい能書きを垂れる方々に一番考えて欲しいのは、永井さんの本がとにかく売れているという事実です。正しい本とは売れる本です)。

 わたしにとってスピノザといえばラカンです(この連想が既に恥ずかしい)。
 ラカンが青年時代にスピノザに傾倒していたのはよく知られており、『エチカ』の公理系を表にして貼っていたとかいなかったとか、そんな俗説まで流れています。
 もちろんラテン語なんて読めないわたしとしては、激しく曖昧な理解のまま勉強するつもりもなく放置していました。事情でちょっと時間のできたときにこういうお手軽な本に出会えたのは、ラッキーだったかもしれません。
 折りしも『無意識の形成物』の訳本下巻が出たばかりですが、正にこのセミネールで主題となっている欲望のグラフを理解するのに、丁度良い手助けになります。
 欲望のグラフと言えば「無意識における文字の審級、あるいはフロイト以後の理性」(『エクリ』収録)で、わたしも以前に関連する雑文を書いたことがありましたが、まぁ他の論文同様かなりしんどいですので(笑)、関連するセミネールが日本語で読めてしまうというのは、有難い世の中になったものです。

 きちんとレビューするような器量もやる気もないのではしょりますが、少なくとも「神」の一字が出てきただけでひいてしまいそうな大学一年生をつなぎとめる工夫は十全にされています。「神」とか言ってくれちゃうと本当に紛らわしく、そこで逃げてしまうのが実にもったいないので、こういう気配りはとても大切だと思います。
 もう一つ大学一年生が引きそうなポイントで「そうじゃないよ」というツッコミを入れておけば、「最高善」なんてタームが出てきてもいかがわしいと思わないでください。
 「善」とか言われた途端にがっかりしちゃう気持ちは良くわかるのですが、ここでの「善」はわたしたち日本人が漠然と「善」と言うときのイメージとは大分異なります。お年寄りの手を引いて横断歩道を渡るとか、そういう純朴なものは想像しない方が良いです。
 フランス語のbienには「善」と「財」の両方の意味がありますが、どちらかというと「財」の字をイメージした方が適切なように思います。英語のgoodにも名詞用法で「ノベルティグッズ」とか言うときのgoodがあるでしょう。goodを辞書を引くと「善」の次に「利益」「役」(「役に立つ」ときの「役」)という訳が並んでいます。わたしたちの「善」イメージからすると、そんな功利的で浅薄なものは「善」とはむしろ反対な気すらしてしまうので、漢字の印象に引っ張られないでください。「都合の良いもの」くらいの理解で丁度良いでしょう。

 それから、スピノザと全然関係ないですが、著者は多分かなりの猫好きだと思います。
 なぜそう思うかは読んでのお楽しみ(笑)。


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