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2007年03月13日

『アポロとソユーズ―米ソ宇宙飛行士が明かした開発レースの真実』

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『アポロとソユーズ―米ソ宇宙飛行士が明かした開発レースの真実』 デイヴィッド・スコット アレクセイ・レオーノフ DavidScott AlexeiLeonov 鈴木律子 奥沢駿『アポロとソユーズ―米ソ宇宙飛行士が明かした開発レースの真実』
デイヴィッド・スコット アレクセイ・レオーノフ

 アポロで月に行ったデイヴィッド・スコット。ソユーズで宇宙を飛んだアレクセイ・レオーノフ。
 米ソ宇宙開発レースの最前線にいた二人の宇宙飛行士が、少年時代から宇宙飛行士としての軌跡までを語るノンフィクションです。
 子供の頃、宇宙の話が大好きで、月に行った宇宙飛行士の話を聞きに学校をサボってシンポジウムに足を運んだこともあるワタクシ。「無秩序と混沌の趣味がモロバレ書評集」さんのエントリで書評を見かけ、速攻で購入。非常に面白かったです。

 二人の宇宙飛行士の語りが交互に繰り返される形で編集されているのですが、どちらも臨場感溢れる素晴らしい筆致で、宇宙飛行士になるには文学のテストもあるのかしら、と思われるほど。
 一方、二人の足跡は好対照。エリートのデイヴィッド・スコットに対し、アレクセイ・レオーノフは画家の夢を諦めてパイロットになった人物。少年時代の回想で、奇しくも両方に「裸足」というキーワードが表れるところがあるのですが、スコットの「裸足」がビーチでひと夏裸足で過ごした、というエピソードなのに対し、レオーノフの「裸足」は小学校の入学式に靴がなかった、というお話。物語としてはレオーノフの方が数段魅力的です。
 上記エントリで「前半はレオーノフの圧勝」とあるのには同感です。スコットが面白くなるのは後半、やはりアメリカがソ連を追い抜き上り調子になってからです。本書は「ツカミ」として、本書中最大の「見せ場」が最初にちらっと書かれる、という憎い編集法を取っているのですが、ここで使われているジェミニのトラブルの場面は手に汗握るような思いで読みました。基本的に、人間的な記述ではレオーノフ、メカ関係ではスコットが魅力的です。
 スペースシャトルの事故で思い知らされたことですが、つくづく宇宙開発というのは死と隣り合わせです。ニュースで見聞きするだけのわたしたちにとってはそれだけですが、本書の語り手たちにとっては「友人の死」です。本書中でも何度も「仲間の死」が綴られていますが、それらはニュースや歴史の一ページとして知るのとはまるで違うリアリティをもって迫ってきます。
 訓練中に火災で飛行士全員が亡くなったアポロ1号。パラシュートが開かず地上でぺしゃんこになったソユーズ1号。大気圏再突入で通気孔が開いて全員が死亡したソユーズ11号。彼らは元々空軍のパイロットなので、リアルな描写にも耐えられるのかもしれませんが、一般人としては読んでいるだけで痛くなります。
 正直、こんな恐ろしい目にあって、なお宇宙に行こうという人の気持ちがちょっとわかりません。子供の頃は、将来絶対宇宙に行きたい!とも思っていましたが、現実の宇宙開発は屍を乗り越えて尚進むような勇猛さが必要のようです。やっぱりわたしは見るだけにしておきます・・
 特に胸を打たれたのがガガーリンの死。彼が亡くなったのは飛行機事故なので、宇宙開発そのものの過程でではないのですが、レオーノフは友人の死を彼の肉片に残ったホクロから確認しているのです。バラバラになった友をその肉の欠片から認める時の気持ちは、いかばかりだったでしょうか。しかもガガーリンの死の原因には、ソ連上層部による隠蔽工作が働いたらしく、当初は「酔っ払っていて事故死した」といった中傷まで流されていたというのです(どうやら真相は、当時開発中のスホーイ戦闘機の運用ミスにあったらしい)。
 ユーリ・ガガーリンという人物について、レオーノフは何度も賛辞を捧げています。実際、彼を巡るエピソードには高潔な意志とユーモアの精神に満ち溢れるものが多いです。

ユーリ・ガガーリンが人類初の宇宙飛行から帰還してすぐにおこなわれた歓迎パーティに、ロシア正教総主教のアレクシス一世が列席していた。「宇宙を飛んでいたとき、神の姿が見えただろうか?」と総主教はユーリに聞いた。ユーリが「見えませんでした」と答えると、「わが息子よ、神の姿が見えなかったことは自分の胸だけに収めておくように」と総主教は言った。
 しばらくたって、ニキータ・フルシチョフもユーリに同じ質問をした。総主教の言葉に敬意を払って、こんどは「見えました」と答えると、フルシチョフは言った。「神の姿が見えたということはだれにも言わないように」。

 ガガーリン作のステキなジョークです。

 個人的に、アレクセイ・レオーノフという人物の人間性に強く惹かれました。
 宇宙飛行士やパイロットとして優秀であるだけでなく、何か特別な霊感を帯びているような、不思議なオーラを感じます。きっとパイロットにならずに画家になっていたとしても、素晴らしい作品を作ってくれていたことでしょう。レオーノフは宇宙船にも画材を持ち込み、沢山の絵を描いたそうです。この作品を是非見てみたい、と思ったら、宇宙画家レオーノフ氏の「空の色」というページにちらっと掲載されていました。絵を描くレオーノフおじいちゃんがとても可愛いです。「やさしい太陽の風」という絵本を出しているようですが、見つけられませんでした。

 ちょっと月並みですが、アポロ11号の月面着陸中継を見ていたレオーノフの語りを、最後に引用しておきます(この中継はソ連では流されなかったが、彼は特別な地位にいたため、軍施設で見ることができた)。

 中継映像で言い表せないほどの強い衝撃を受けたのは、これまでに二度しかない。アポロ11号の月着陸の映像と、二〇〇一年十一月にニューヨークの世界貿易センターのツインタワーが爆破され、多くの人が亡くなった同時多発テロの映像だ。
 月着陸は人類の英知を表している。人類の知識と勇気の勝利である。同時多発テロのほうは、人が落ち込む悪の深みを表している。テロを起こした人たちが、アメリカの市民が月に最初の一歩を記す場面を見ていたならば、あれほどの悪事を起こそうとは思わなかっただろう。
 一九六九年七月二一日の朝、わたしたちは一瞬異なる国の市民であることを忘れた。その瞬間、人類は一体となった。アメリカの最大のライバル国にある、軍人が集まっている軍の施設のなかでさえ、拍手が沸きあがったのだ。

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