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2007年04月25日

『ムッソリーニ―一イタリア人の物語』 ロマノ・ヴルピッタ

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『ムッソリーニ―一イタリア人の物語』 ロマノヴルピッタ RomanoVulpitta『ムッソリーニ―一イタリア人の物語』 ロマノ・ヴルピッタ

 外山恒一さん(※1)もファシズムは誤解されているで書かれていますが、「ファシズム」という語のイメージは第二次大戦戦勝国による誘導で大きく歪められています。ほとんどの場合、「ファシズム」と言えば単に「悪い」ということで、多くの人が蔑称としてしか用いません。
 かなりの期間、連合国側がファシストに対し融和的な政策を取ってきたこと、ファシズムが大衆的支持を得ていたこと、多くの非道と共にいくつかの素晴らしい政治目標を達成していること、これらは高校の教科書でも取り上げられることです。単に頭のおかしい独裁者が好き放題やっただけなら、ムッソリーニが二十年にもわたり政権を維持できたわけがありません。
 とはいえ、具体的なムッソリーニの思想や政策となると、恥ずかしながらまるで無知です。。
 知悉し尽さなければ批判も許されない、とは思いませんが、ある程度の基礎知識がなければ評価も何もできません。
 というわけで、とりあえず面白そうな本から手を付けてみました。

 著者のロマノ・ヴルピッタさんはイタリア外務省出身。駐日イタリア大使館二等書記官、ナポリ東洋大学院現代日本文学教授などを経て、現在京都産業大学で教鞭を取られています。『ムッソリーニ―一イタリア人の物語』はヴルピッタさんが日本語で著したムッソリーニの一代記。つまり翻訳書ではありません。
 意外と言ってしまうと失礼なのですが、単に知識欲から手に取った本だったのに、「読み物」としてかなり面白い。前半はやや淡々としていますが、後半になるに連れどんどん感情移入してしまい、寝る間も惜しんで読破してしまいました。
 「再評価」が主旨ですから、どちらかと言えば持ち上げる表現が多いのですが、「人間ムッソリーニ」を知る上では間違いなく「アタリ」の良書です。

 熱心な社会党員の息子として生まれ、気性の荒い青年時代を過ごしたムッソリーニ。彼の政治人生は社会主義者として始まり、戦闘者ファッショに至るかなり長い期間、社会党員として活動していました。彼が社会党を離れたきっかけは第一次大戦への参戦を主張したことにあり、自身も敢えて一兵卒として従軍しています。彼にとって戦争とは、利権の問題というより「国民を一つにすること」、国威掲揚に重点があったようです。
 ファッショというと秘密警察が常に目を光らし、一寸の批判も許さない、といったイメージがありますが、本書を読む限り、ムッソリーニのとった政策はそれほど極端なものではありません(今の東京の方がある意味怖いです)。確かに挙国一致体制を目指してはいましたが、そのためには他派陣営との一定の協調も求められます。また少し意外なことでしたが、ファシスタ党自体一枚岩ではなく、暴走しがちな地方首領を取りまとめるのにムッソリーニは苦労したようです。
 当時のイタリアは長い分裂の時代からようやっと統一国家に至り、西洋帝国主義列強の中の「二等国」。国家は非合理的で、社会党はストを繰り返すばかり。失意の国民が「強いイタリア」を求めたのもわかる気がします。
 人としてのムッソリーニの印象は「熱い男」。荒削りで大雑把すぎるところはありますが、「冷酷な独裁者」というキャラクターではまるでありません。共和国時代に元共産党の旧友をかくまった話など、「人情」話には事欠きません(ファシスト政権時代のほとんどは立憲君主制で、失脚後一時ムッソリーニが復帰した短い期間だけが共和制だった)。政治家としての適正は別として、性根は優しい人だったのではないでしょうか。
 ファッショの思想は、例えばマルクス主義等と比較できるような確たる理論のあるものではありません。サンディカリズムと深く関係するものの、理論的一貫性を主とするものではなく、印象としては「任侠」です。振るわない故国に絶望し、やり場のないエネルギーを持て余している若者を地方のボスがまとめ、その荒くれたちの大親分にドゥーチェ(総領)がいる。ヤクザが国政を牛耳っては困るのですが、政治家などヤクザの糖衣バージョンのようなものですから、ハッキリ言っているだけ気持ちがよいくらいです。
 ヒトラーとの対話の場面も何度か取り上げられるのですが、人間としては器が違います。なんだかビクビクした感じのヒゲオヤジに比べて、ドゥーチェのなんと堂々とし、教養に溢れることか。検索をかければ二人が並んでいる写真が沢山見つかると思いますが、風貌からして「大親分」な重みがあります。
 余談ながら、イタリア降伏と同時に攻め込んだドイツ軍の蛮行には実に胸がむかつきます。それ以上に不愉快なのが、ムッソリーニ直後のパドリア政権。ただムッソリーニを引きずりおろし、講和も結べないままファシスト・反ファシスト共に多大な犠牲者を出し、しかも「午前中だけ執務し、昼寝の後は友人とトランプ」って、子供かアンタはっ!

 読み物としては、第二次大戦に突入して以降の方がエキサイティングです。しかも緒戦から敗色濃厚。追い詰められていくムッソリーニ。あれほど強気だった男が、少しずつ憔悴し、それでも名誉を保とうとする姿は胸に迫ります。
 感涙ものなのが、謀反により捉えられ、幽閉先のポンツァ島で監視役となった憲兵と出会う場面。この憲兵は、ファシスタ党上司の不正を告発しようとして、逆にポンツァ島へ左遷されていたのです。
「ドゥーチェ、貴殿に会見することは、かねてからわたしの熱望でありましたが、この状況の下では・・」
 憲兵は涙します。電車の中のわたしも目ウルウルです。

 任侠なファシスト。物語として読む分にはとても感情移入してしまうのですが、実際に政権を取ったとしたらどうでしょう。
 大ボスは立派な方でしょうが、「任侠」なグループが幅をきかすとなれば、末端は間違いなく元ヤンです。そんなシンナーで歯が欠けてるようなチンピラに偉そうにされるのは、あまり嬉しくありません。
 ファシズム・ストーリーが面白いのは、正にそれが「物語」だからです。「物語」を人びとが求めた時、ファッショ的なるものはどんな国民をも熱狂させることでしょう。
 しかし現実は物語ではありません。熱狂して突っ走っても、必ずその先があります。フリーザを倒してもセルを倒しても終わらないドラゴンボールのように、うんざりするほど続きがあるのです。
 それでも、フィクショナルなものに駆動されるのが人間です。ですから、一定の周期で「物語の季節」が巡ってくるのはわかりますし、わたしも惹かれるものがあります。ファシズムそれ自体、「さておかれない冗談、外山恒一」で書いた「さておかれない冗談」的なところがあります。「ネタだと思ったら本気なの!?」な勢い、物語の中から飛び出してくるような躍動感です。「勢いだけじゃアカンやん」というツッコミと、突っ走る気持ちがぶつかり合います(ファシズムそのものについての私的スタンスは別途エントリを立てます)。

 ヴルピッタ氏が本書を著した動機には、セリエAと地中海料理しか知らない日本人に、イタリア人の複雑な心理をわかって欲しかった、ということがあるそうです。ムッソリーニは今でもイタリア人の心に深く刻まれ、ローマ帝国の末裔でありながら「二級民族」の誹りを受けるコンプレクスを映し出しています(もちろん、極めて批判的な向きもある)。立身出世から謎の死に至るまで、ムッソリーニは神話となるに足る人物なのです。
 彼の思想や政策、とりわけ無謀な戦争に突き進んだことについては、慎重に評価すべきでしょう。
 しかし、星の数ほどいる政治家の中で、その伝記が遠い異国の地の一市民をこれほど熱くさせる人物が何人いるでしょうか。

 ドゥーチェ、アンタ侠だよ。めちゃくちゃカッコイイよ。
 いつか懸賞に当たってイタリアに行ったら、必ず墓参りするからね。


※1
「さておかれない冗談、外山恒一」に続いて外山さんに言及しているため、一応エクスキューズしておけば、わたしは彼に大変興味を持っているものの、まだお会いしていないため評価は保留状態です。また、彼のテクストはなかなかキャッチーですが、あくまで「外山恒一のファシズム」ととらえた方が良いでしょう。
ちなみに、外山恒一さんが近く再度上京され、5月14日頃まで滞在されるそうです。わたしとしてはなんとかして直接お話してみるつもりですが、多忙なところを独占するのは難しいでしょうし、同じく関心を持たれている方がいたらまとめて「囲む会」でも開きませんか? 本気で興味のある方はコメント下さい(こちらのページにメールアドレスも掲載していますが、明示的タイトルで常識をわきまえた内容にしてください)。申し訳ないですが連休後半5/3-5/5はわたしが東京にいないため、避けて頂けると嬉しいです。4月中は既に予定いっぱいとのことなので、わたしを含め平均的労働者のスケジュールを考えると5/12土曜日あたりが候補ではないかと考えています。
外山さんには「会えないか」旨のメールを既に送信しています。既に同様の催しが進行していたらそちらに合流します。イベント後の打ち上げ乱入でもいいです。

追記:
とりあえず5/14イベント参加、その後合流方針です。

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