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2007年05月27日

「非コミュな一体感」、一体感とインタラクティヴ性

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 相変わらずブートキャンプにハマっています。「ブートキャンプやってます!」でも書いたのですが、このブートキャンプ、一人でやっているのに異様な一体感があります。「一人なのに一体感」なものを仮に「非コミュな一体感」と呼んでみると、「非コミュな一体感」にも二種類あることに気付きます。

 ここでの「一体感」は非常に大雑把な使い方をしているので、別段高尚な意味を含んでいるわけではありません。例えばサッカーを見に行ってみんなで盛り上がる、みたいなものが「一体感」です。サッカーの場合は「非コミュ」ではない「コミュな一体感」です。
 実際にみんなで集まるのではない一体感、「非コミュな一体感」となると、すぐに思いつくのはネット上のコミュニティなどです。2ちゃんねるの「祭り」などにも、そうした「一体感」があるのではないでしょうか。
 この場合、「盛り上がっているけれど、ふと我に帰って周りを見回すと誰もいない」という意味では紛れもなく「一人」ですが、ネット越しとはいえ一応向こうにも人がいる、という意味では「リアル一体感」に比較的近いです。リアルサッカー観戦とテレビ観戦掲示板では、臨場感に格差があるでしょうが、本質的なところはそれほど違わないでしょう。
 ですが、例えばブートキャンプにあるような「一体感」は違います。「掲示板でブートキャンプについての話題で盛り上がる」なら、二番目の「一体感」と同じですが、ブートキャンプ自体の一体感は、あくまで画面の中の人びととの一体感、全然インタラクティヴではない一体感です。
 整理すると、

リアル一体感
ヴァーチャル・インタラクティヴ一体感
ヴァーチャル・非インタラクティヴ一体感

 の三種類ということになります。
 順列組み合わせ的には「リアル・非インタラクティヴ」も想定可能ですが、実際的には厳しいでしょうから「リアル」でまとめておきます。
 このうち非インタラクティヴな一体感は独特で、本やコミックに夢中になる、といったことも仲間に入るでしょう(これらは一般的にはあまり「一体感」とは呼ばれないでしょうけれど)。横に並ぶものが重要なのではなく、ひたすら焦点の先にあるものに向かっていく「一体感」です。
 ブートキャンプの一体感を「画面の中」との一体感と言いましたが、仮に「スタジオのお姉さん」ナシで画面にビリー一人しか登場しなかったとしても、やはり一体感は実現できるでしょう。ですから、実は、「横に並ぶ人」が画面の中なのか「こちら側」なのか、が重要なのではありません。どの一体感でも焦点は一つです(ビリーとかサッカーとかアイドルとか)。これに対して、一緒に焦点を見つめる「横に並ぶ人」がいる。インタラクティヴ性が分かれるのは、この「横に並ぶ人」との関係であって、焦点との関係で言えば「一体感」は常に非インタラクティヴ、一方向的です。

 「非インタラクティヴ一体感」が興味深いのは、正に非インタラクティヴであることが一体感形成の鍵になっているところです。
 普通に考えれば、横に並ぶ人たちと考えを分かち合えた方が盛り上がりそうです。実際、「リアル一体感」などでは意見や感想が交わされることでしょう。
 映画を一緒に観て感想を言い合うなら、「リアル一体感」です。しかし、余りに良い映画だったりすると、下手に感想など語り合いたくない、という場合があります(同じ「映画」という対象が、「リアル一体感」になる時もあれば「非インタラクティヴ」になる場合もある)。また、自分にとって非常に大切な本については軽々しく人と話したくない、といったことは誰にでも経験があるのではないでしょうか。
 意気投合できれば結構ですが、自分の根本を支えているような信念が否定されてしまったりすれば大ダメージです。
 しかしより重要なのは、必ずしも「意見が違う」ことが致命的なわけではない、というところです。むしろなまじ「同じ」であったために、大切なものが穢された気持ちになる、ということがあります。「こんなヤツと同じ考えだなんて」という場合もあるでしょうが、核心にあるのは「対象として具体的に提示されてみると、つまらないものだった」「頭の中では崇高だったけれど、他人の言葉として聞いてみたらまるで凡俗だった」という経験でしょう。
 大抵のものは、近寄ってみればつまらないものです。
 寄っても離れても気高いものが裸で転がってはいることなどありません。
 世界は、アメリカの地方都市のように、どこまでもうんざりするほど平べったいです。
 しかしそれでは法も美学も無くなってしまいそうで、寂しくて辛すぎるから、祭りやえびちゃんや「聖書」で盛り上がっておきたいです。
 より正確には、世界の平べったさに対する呪い、<特別な場所>を留保し宙吊りの欲望を維持すること、その「成れの果て」としてわたしたちは世界に生み出されたのです。言わば、わたしたちの存在自体が「継承された呪いの賜物」であって、「欲望せよ」という命法に導かれるまま、ただ次の者に呪いのバトンを手渡すのです(※1)。
 わたしたちの生を成り立たせている倫理とは「欲望せよ」という命法ですから、萎えてしまうような経験には警戒しないといけません。そして萎えさせるものとは、往々にして欲望を達成させてしまうもののことです。「手にしてみたらこんなものか」です。こうなると、宙吊りにしてくれる新たなターゲットをまた探さなければなりませんから、エンジン始動のエネルギーが大変負担です。ですから、「意見が違う」よりむしろ、「同じ考えで、しかもツマラナイ考えだった」場合の方が致命的なのです。

 話を元に戻すと、三つの一体感のどれでも、核心にあるのは「対象との非インタラクティヴ性」です。コレが気持ちよく「届きそうで届かない」から、盛り上がれるのです。ですから、逆説的にも、横に並ぶものの重要度が低い(むしろいない方が良い)「非インタラクティヴ一体感」こそ、「一体感」の本質をよく表しています。
 「横に並ぶ人」がどうでもいい、という意味ではありません。「横に並ぶ人」は常に想定されています。しかしそれは「多くの人を惹き付けているのだから、値打ちがあるに違いない」ということではなく、「横」があることで始めて「縦」が成り立つからです。
 「縦」だけではうっかり九十度転がって「アイドルもただの人」になってしまいかねません。「横」の水平がしっかりしていれば、「縦」が紛れもなく「縦」であり、「横」がたまたま九十度傾いているだけ、という疑惑を退けることができます。
 ただ、本当のことを言ってしまえば「縦」などないわけですから、「横」とあんまり通じ合って「縦」を支えている幻想が破られてしまっては元も子もありません。「非インタラクティヴな一体感」は、この微妙な駆け引きの結果なのでしょう。
 そうすると、実は「リアル」も「インタラクティヴ」も本質的には「非インタラクティヴ」です。語り合い共有しているようで、核心の部分は幻想として維持されているのです。語り合っているようで、右から左へスルーです。
 逆に言えば、「信仰心」が篤く洗脳のうまくいった方ほど、「リアル」に行くのでしょう。ちょっとやそっとお喋りしたくらいで「縦」への確信が揺らぐことがないからです。

 ちなみに、わたし個人は極めて「非インタラクティヴ」的です(※2)。
 いつも神様やら戒律やら軽々しく連呼していますが、実はそういう人間こそ「信仰心」が薄く、「縦なんてホントはないんやろなぁ」と疑いぎみで、下手に他人の意見など聞いてしまうと、やっとでかかった洗脳がすぐ解けてしまうのしょう。
 「みんなと同じ意見でも自分の意見を維持できる」人が羨ましいです。


 さらにオマケしておけば、ラカンがあちこちで引いているフロイトの『集団心理学と自我の分析』は、この問題を精緻に扱ったものです(とわたしは信じています)。わたしは人文書院の全集で読みましたが、岩波から出ている新しい全集の17巻に収録されています。17巻と言っても、この全集は時系列でナンバリングされているので、初回配本がこの17巻、つまり最も重要視されている、ということでしょう。今読むと泥臭い感じもあるのですが(百年前の本ですからね)、極めて重要なテクストであることは間違いないので、興味のある方は一読されて損はないと思います。
 新しい訳を読んでいないのでなんとも言えませんが、人文書院版全集の翻訳のヤバさには定評があるので(すいません)、今読むなら岩波がお得だと思います。
 欲しい・・・本も読む時間も。

『フロイト全集〈17〉1919‐1922―不気味なもの、快原理の彼岸、集団心理学』 須藤訓任 藤野寛 『フロイト全集〈17〉1919‐1922―不気味なもの、快原理の彼岸、集団心理学』

※1
「追い抜いちゃった人たち、愛=暴力、資本」参照。

※2
「虚空に向かって書くからこそ丁寧に書く」参照。

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