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2007年08月07日

『聖典「クルアーン」の思想』大川玲子

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『聖典「クルアーン」の思想――イスラームの世界観 現代新書』 大川玲子 『聖典「クルアーン」の思想――イスラームの世界観』 大川玲子

 良書です。
 なぜ今まで手にとっていなかったのか、不思議なくらいです。
 第一章はクルアーン(コーラン)およびイスラームの概説、第二章はキリスト教・ユダヤ教の聖書とクルアーンの関係。第三章では、クルアーンのアーキタイプとして天にあると想定される「天の書」が論じられます。そして第四章が、日本人とクルアーンの関係に充てられています。
 特に第四章は、戦前亜細亜主義におけるイスラーム理解が論じられているほか、各種日本語訳の比較・紹介等があり、大変興味深く読めました。これからクルアーンを学びたい、とりあえず日本語訳を読んでみたい、という方にとって絶好のコンシェルジュとなっています。

 「天の書」の想定には大きく二つの機能があり、一つは「運命」、つまり「すべては既に書かれている」ということ。もう一つは、例えばモーセがいわゆる「十戒」を一度に「下ろされて」いるのに対し、クルアーンがムハンマドの口を通じ順次下されていることが、「啓典の民」から批判されたこと。そのため、クルアーンも「本体」はまとまってあり、それがあるところ(最下天と言われる「天」の最下層領域)までは一度に下ろされ、そこから順次啓示という形で示された、という解釈を示す必要があったようです。ネットワーク内のサーバに一度ダウンロードして、各ホストはそこに取りに行くようなイメージです。
 「すべては書かれている」運命論は、アングロ・サクソンの嫌悪するところで、そのため彼らの自由論は「選ぶ」自由という形を取り、高度資本主義下の消費様式にもこれが反映されています。しかし、「書かれている」か否かはともかく、わたしたちは何も選べたりしていないわけで、むしろ選べないことを承知の上で「選んだ」と叫ぶ道を「選ぶ」ことにしか自由はありません。これは他のすべての自由(ピザのトッピングを選ぶような自由)を犠牲にして、「選べない者として在る自由」を選択することです(※1)。この辺りがおそらくイスラームの思想の内部にも見出せるのではないのかと思うのですが、本書ではそこまで踏み込んだ議論はされていません。

 重い腰をあげてクルアーンを学ぼうとしているのですが、アラビア語ができないのは実に痛いです。クルアーンは原則として翻訳を認めないものですし(いわゆる「翻訳」は「意訳」として解釈の一種のような位置づけをされている)、何よりアラビア語で読まれた時の音が素晴らしく美しい。気合いでアラビア語を勉強しようかとも思うのですが、愛するNHKラジオ講座にも科目がなく、何から手をつけてよいやらもわからない状態です。
 ちなみにキリスト教の聖書についても、ラテン系の言語で読むと日本語より格段にしっくり来ます。元を辿ればヘブライ語でしょうが、ラテン語がスタンダードであった長い歴史がありますから、これに近い状態のものが一番美しく詠じられるようにできているのではないでしょうか。「主の祈り」もフランス語が一番馴染めます(残念ながらラテン語はわからないので)。英語は古い英語のものも含めて、どこかトゲトゲしくて心が落ち着かない気がします。まったくの個人的偏見ですが。

※1
 この「自由」については以下参照。
「ムッソリーニ、人種、自由」
「スラヴォイ・ジジェク『人権と国家』、寛容と自由」
「自由意志、自己決定、「他者を手段としてのみならず同時に目的として扱え」」


イスラーム関連記事:
「大川周明とイスラーム、日本のイスラーム化と「さておかれない冗談」」
「日本のムスリム社会、日本人ムスリム」
「非ムスリムがブルカで出社する」
「『アメリカの中のイスラーム』 大類久恵」
「『イスラーム戦争の時代』 内藤正典」
「中東イスラーム民族史―競合するアラブ、イラン、トルコ」

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コメント

3カ月ほど前から、読ませていただいています。
 アラビア語学習(独習?)について。東京外語大が下記のようなサイトを開設しています。http://www.coelang.tufs.ac.jp/modules/index.html
 私はドイツ語を試しているのですが、ラジオを併用する限り使えそうです。
 お時間が許せば、下記も別の言語を受講している人に聞く限りコストパフォーマンスは良いようです。後期は9月上旬から募集開始と聞きました。
http://www.tufs.ac.jp/common/open-academy/kouza.html
上記2つとも、当然アラビア語コースがあります。
以上、ご参考になれば、と思いまして、はじめてブログというものにコメント」した次第です。何か不作法がございましたら、お許し下さい。

投稿者 T34/68 [TypeKey Profile Page] : 2007年08月07日 16:48

こんにちは。情報ありがとうございます。
アラブ・イスラーム学院なるサウジアラビアの出先機関のようなところがやっている講座は知っていたのですが、大学にも公開講座があるのですね。素晴らしい。
でも時間が18:30始まりというのが厳しいですね。もう少し遅ければ頑張ってみるのですが、それはそれで体力的に大変かなぁ・・。
web学習は苦手なので、とりあえず入門書からでも始めてみるかもしれません。とにかく異様に色々な勉強を平行していて、乏しい能力の限界を越えているので、挫折しても笑わないでくださいね。
NHKがテレビ講座しかないのが悲しいです。短期集中講座があるらしいので、CDとテキストでも買ってみようかな、と思っています。
ドイツ語やってらっしゃるのですか。わたしはラジオ講座を一年くらい欠かさず聞いていたことがありましたが、既に微塵も残っていません(笑)。格変化系はすべて挫折しました。あ、アラビア語も格変化アリですね・・不吉な・・。

投稿者 [TypeKey Profile Page] : 2007年08月11日 11:42

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